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””私に出来る事”⑫

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主人の祖母と話すために、月に一、二回は主人の実家に行くことにしている。

 

祖母は車椅子だが、歩きたいという気持ちが強いらしく目を離すと物づたいに歩こうとして、転んでしまうのだという。

 

祖母は私に会うとまず一番に最近の体調を聞く。


それは子供は出来たのか?という意味をオブラートに包んだ質問だ。

 

しかしそのオブラートもすぐにやぶれ、赤ちゃんは?と続く。

 

清々しいほど直球だ。しかし前回ここへ来てからまだ二週間、特に変化はない。

 

しばらく色々と話した後、結婚してるの?と聞いた。

 

しています、と言うと「ご主人は今日は何してるの?」と言う。

 

「主人は、あなたの孫ですよ」

 

と言っていいのか迷った。

 

話を合わせたほうがいいのか。それとも事実を伝えるべきか。

 

考えていると、主人の母が「○○(主人)のお嫁さんでしょ?分かってる?」と助け舟を出す。

 

すると「分かってます!」と祖母。

 

祖母はこの時どのように私を認識していたんだろうか。

 

主人の妻であることは分かっていないが、自分の血縁の赤ちゃんを産みそうな立場の人間ということだけ分かるようだ。

 

もしかしたら主人のことが分からなくなっているのでは?と思い、○○さんが、○○さんて、○○さんとと出来るだけ名前を出すようにした。

 

夫よ、もっと顔を出さないと忘れられるぞ…。

 

祖母が自室で休んでいるとき、母と二人きりになった。

 

母を労わると母は、もっと自分より大変な人はいるから。と言う。

 

大変さは比べられるものじゃないですよ、と伝えた。

 

それぞれがそれぞれの事情があって、どの家庭も色々ある。

 

母は、「離れて暮らしていたからやっと一緒に住めたと思っているの」と続けた。

 

一人っ子の母は、上京後岩手に残してきた祖母が気がかりだったのだろう。

 

「毎日イライラはするけど、思えば(祖母の)我儘なんて小さいことだし、(一緒に過ごす)時間をもらってるって思うのよ」

 

そう話す母を見ていると、目頭が熱くなる。

 

私もそうだ。

 

母方の祖父母、父方の祖母、主人の祖母、そして時には実母にも思う。

 

あとどれくらいお世話出来るのかと。

 

いま時間をもらっていると。

 

もちろん高齢者だけじゃなく、主人だって友人だって自分だって明日何が起こるかは分からない。

 

いつだって与えられている時間なのだ。

 

二年前、主人のもう一人の祖母に初めて会う予定だった。

 

しかしその予定の一週間前に帰らぬ人となった。

 

かろうじて息がある時に駆けつけたが、顔を見てお話することは出来なかった。

 

生前、主人が会いに行くときにお花やお手紙を持たせたり、出来るだけのことはした。

 

老人ホームで部屋着で会うのは恥ずかしいと言われたら、私の立場からは無理にはと言えなかった。

 

それでも。

 

もう少し強く会わせてほしいと言えば良かったと、後悔がないと言ったら嘘になる。

 

自分が後悔しないために、与えられた時間を大切にしたい。


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